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東京高等裁判所 平成9年(ネ)2230号 判決 1999年9月16日

控訴人 A野太郎

<他3名>

右四名訴訟代理人弁護士 吉川孝三郎

同 吉川壽純

同 堀康司

被控訴人 国

右代表者法務大臣 陣内孝雄

右指定代理人 熊谷明彦

<他7名>

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人A野太郎に対して金六〇万円、控訴人B山春子に対して金三〇万円、控訴人C川夏子に対して金三〇万円及び控訴人A野一郎に対して金三〇万円並びにこれらに対する平成四年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、一、二審を通じてこれを三〇分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人A野太郎に対して金二五三〇万円、控訴人B山春子、控訴人C川夏子及び控訴人A野一郎に対してそれぞれ金八二五万円並びにこれらに対する平成四年一〇月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり補正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第二と同じであるから、これをここに引用する。

一  原判決五頁一一行目の「その血小板の値は正常人の一〇分の一まで下がっていた。」を「当日の花子の血小板数の値は一万一〇〇〇であり(第一クール、第二クールの血小板、白血球の値の推移は、別表『検査データ一覧表』記載のとおりである。)、第二クール開始前の値の約一〇分の一にまで下がっていた。」に、同六頁三行目の「化学療法後の」を「化学療法に用いられたアクチノマイシンDの副作用である」にそれぞれ改める。

二  原判決七頁一行目の「花子の癌は、」から同頁五行目末尾までを「花子の癌は、被告病院により子宮内膜癌のうちの明細胞癌であると診断され、被告病院は、その摘出手術後の予後治療として、骨髄抑制作用のあるアクチノマイシンDとシスプラチンの併用投与を行う化学療法を実施した。」に改め、同九頁一行目の「特に、」の次に「第二クールが終了した後の平成四年九月二六日と二七日の二日間、花子に対して血液検査を行って血小板と白血球の数値を監視することをせず、」を、同一〇頁一〇行目末尾に「本件においては、誰にも出るわけでもない重大な副作用が第一クールにおいて発現した以上、第二クールにおいて同様の副作用が発現する可能性が高いことは当然予見すべきであり、副作用の発生の可能性、死亡に至る可能性について第二クールを行うに当たって患者に対して説明すべき注意義務があったというべきである。」をそれぞれ加える。

三  原判決一三頁四行目の「腺癌(内膜型腺癌)ではなく、」を削り、同頁七行目の「との抗癌剤感受性検査の結果」を「との被控訴人病院で従前から研究してきた抗癌剤感受性検査の結果」に、同一四頁三行目の「半分に減らした。」を「半分に減らし、投与期間を二倍に増やした。」にそれぞれ改め、同頁一〇行目の「すること」の次に「や第二クールを開始する時点では花子が血小板減少による消化管出血による死亡する事態」を加え、同一六頁三行目の「出血により死亡したものである。」を「消化管出血により死亡したものと考えられる。」に改める。

第三当裁判所の判断

一  事実関係等

基礎的事実関係及び本件の診療経過等については、次のとおり、補正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第三の一と同じであるから、これをここに引用する。

1  原判決一八頁六行目の「九、」の次に「一二ないし一四、二〇、」を、同行目の「一五、」の次に「二三ないし二五、二七ないし三一」を、同七行目の「正人」の次に「、鑑定人斎藤馨の鑑定の結果」をそれぞれ加え、同二一頁二行目の「癌研究会附属病院の」から同四行目末尾までを「昭和六二年の癌研究会附属病院の病理及び婦人科の報告によれば明細胞癌の術後五年生存率は三二・四パーセントであり、平成八年の同病院婦人科の報告によっても術後五年生存率は三〇パーセントとされている(なお、乙二七の報告には、海外においてはその生存率が三五・二パーセント、四三パーセント、五八パーセントとする報告があることが紹介されている。)。」に改め、同二四頁一行目の「卵巣癌に対する」の前に「一般に、子宮体癌又は」を加え、同頁四行目の「行われている。」を「行われており、その卵巣癌の新鮮症例に対する有効性は七〇パーセント前後とする平成元年の報告、あるいは子宮体癌に対する奏効率四五パーセントとする平成七年の報告もあるが、Ⅰ期、Ⅱ期の早期癌に対しては有効であるもののⅢ期以降の進行癌に対する有効性には疑問を投げかける平成七年の報告もある。」に改め、同二四頁五行目の「同じ性格を」から同頁一一行目末尾までを「同じ性格を有するものと考えられており、これに対する薬剤又は治療方法の研究も卵巣明細癌に対するものと共通のものとして行われているところ、平成元年にはCAP療法は卵巣明細胞癌に対しては必ずしも有効ではないという報告があり、平成七年にはシスプラチンの五年以降の予後の成績は他の治療方法と何に変わらないという指摘があった。また、同年には他の癌に対しては高い有効性が確認されていた抗癌剤シスプラチンが明細胞癌に対しては全く感受性がないとする報告も公表されるに至った。このような中で、人の癌細胞を培養しこれに対する抗癌剤の効果を試す抗癌剤感受性試験を実施して臨床に応用しようとする考え方が生じ(乙三〇は平成七年のもの)、平成三年には被控訴人病院の研究チームを代表した岩崎教授が卵巣明細胞癌に対してアクチノマイシンDの有効の可能性を指摘する論文を公表し、次いで平成四年七月には被控訴人病院の研究チームを代表して西田正人医師が、その抗癌剤感受性試験の結果によれば明細胞癌にもアクチノマイシンDとシスプラチンの併用投与が有効と考えられるという論文を発表していた。また、平成一〇年に至り日本癌治療学会において明細胞癌に対するアクチノマイシンDの有効可能性を指摘する報告(鑑定人斎藤馨の鑑定の結果)が行われた。」に改める。

2  原判決三一頁一行目の「有効でないことが」から同頁四行目末尾までを「有効ではないという指摘が公表されており、他には明細胞癌に対する治療として準拠すべき標準的な化学療法は存在しない状況となっていたので、その当時から指摘されていた抗癌剤感受性試験の結果を拠り所とすることとなった。」に改め、同三二頁八行目の「が見られた。」の次に「これらの減少の状況は、別表『検査データ一覧表』の上段記載のとおりである。」を加え、同三三頁九行目の「させることとした。」を「させ、投与期間を二倍の一〇日間とすることとした。」に、同三四頁四行目の「正常値であったが、」を「正常値であり、右のとおりアクチノマイシンDの一日当たりの投与量を半減させていたから、西田医師らは第一クールに比べて白血球数と血小板数の減少は遅れて発生するものと推測し、九月二六日と二七日の両日は血液検査を実施しなかったところ、」にそれぞれ改める。

二  被控訴人病院の医師らの治療上の過失について

当裁判所も、被控訴人病院の医師らに治療契約上の債務不履行及び治療に関する不法行為上の過失はないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第三の二と同じであるから、これをここに引用する。

1  原判決三六頁五行目の「原告らは、」から同頁八行目の「である。」までを削除し、同三七頁二行目の「西田医師を含む」から五行目の「投与したものであった。」までを次のとおり改める。

「前記認定のとおり、被控訴人病院の研究グループに属する岩崎教授は、平成三年に卵巣明細胞癌に対してアクチノマイシンDが感受性を有すると指摘する論文を公表しており、前記認定事実と乙三一によれば、平成四年ごろには卵巣明細胞癌に対して従前標準的治療方法とされてきたCAP療法が効果が薄いことは既に指摘されていたところから、西田医師は、人の卵巣明細胞癌の細胞株に対する二三種類の薬剤感受性を調べる試験を実施し、その結果アクチノマイシンDが最も有効でシスプラチンがこれに次ぐという結果を平成四年七月に専門誌に公表していたところ、同一腫瘍は共通の薬剤感受性を有する可能性があることに着目して、花子の予後の予防的治療としてアクチノマイシンDとシスプラチンを投与することとしたものであった。ところで、本件の明細胞癌の場合のような臨床的な標準的治療方法が確立していない疾病の治療においては、契約上診療債務を負う医者としては、善管注意義務に従い、当時の臨床医学の水準に基づいて最善と考えられる治療方法を採用すべきであり、また、採用することができると解されるが、その治療方法が、臨床医学的に一応承認されていても特定の症例にとってその適否や効果が未開拓の分野に属し、治療が研究段階又は実験段階にあるとしても、右の治療方法に研究目的、実験目的がなく、専ら臨床上の必要に迫られたものであり、その効果に対する一応の臨床医学的な裏付けがあると認められる場合においては、その治療効果の程度、限界又は副作用につき患者等に対して説明してその決定、選択を尊重すべき義務を負うとしても、診療契約上の治療方法に関する医者の医学的裁量性に照らして、その治療方法を採用したことをもって直ちに過失がある、又は診療契約上の債務不履行があるということはできない。この観点で、西田医師らの採用したアクチノマイシンDとシスプラチンの投与をみると、右のいずれの薬剤も開発中の新薬ではなく、既に抗癌剤として認知されていたうえ、この併用投与を行う化学療法の手法は、被控訴人病院の従前の研究の結果に基づくものであってその結果は公表されていたというのであるから、これが当時の臨床医学的水準において未開拓の分野に属していたとしても、西田医師らが研究目的又は実験目的で行ったと認めるに足りる証拠はない。したがって、前記認定の平成四年当時の臨床水準に照らせば先端的な化学療法であったといえるが、西田医師らの採用した前記治療方法はなお臨床的治療の範疇に含まし得るものと認められる(なお、鑑定人斎藤馨の鑑定結果によれば、今日ではアクチノマイシンDの明細胞癌に対する有効性が学会でも発表されるに至っていることが認められる。)。したがって、平成四年当時においては標準的な治療方法ではなかったことから、患者等に対する前記説明義務と患者にクオリティ・オブ・ライフ等を考えた医療に切り替える選択の余地を残す自己決定に関する意思尊重の義務が生じていたとはいえるが、診療契約上最善を尽くすべき債務を負担する臨床医師として、裏付けなくして薬剤又は治療方法を選択したものとは認められず、治療方法の選択において過失があるとはいえない。」に改める。

2  原判決三八頁二行目の「しかしながら、」から六行目の「誤りがあったとはいえない。」までを次のとおり改める。

「 確かに、《証拠省略》によれば、被控訴人病院においてそのころアクチノマイシンDを含んだ化学療法を実施した患者の内で初回の投与によって花子の場合ほど血小板数と白血球数が減少した者はいなかったし、また、CAP療法を受けた患者と比較しても概ね同様にいうことができたと認められるから、第二クールを予定どおり実施するか否かについてはなお検討の余地があったと認められるが、前記認定のとおり、第一クール実施の後、花子の血小板数と白血球数は別表『検査データ一覧表』のとおり順調に改善したと認められるから、西田医師を含む被控訴人病院の医師らが花子の骨髄の回復能力につき余力があると判断したことはやむを得ないところであったと認められる。したがって、第二クールを実施するに際して、第一クールの前記結果に関して説明したうえ花子等の選択を尊重すべき義務があったと認められるものの、前記認定のとおりの花子の予後治療の必要性とアクチノマイシンDを含んだ化学療法の一応の有効性を示す抗癌剤感受性試験の結果があったことに照らせば、西田医師を含む被控訴人病院の医師が第二クールを実施して再度アクチノマイシンDの投与を行ったことをもって治療法として過誤であるということはできない。」

3  原判決三九頁八行目の「しかし、」から四〇頁七行目の「行っているから、」までを「しかしながら、前記認定の花子に対する本件化学治療の性質に鑑みれば、第二クールにおけるアクチノマイシンDの副作用に対する対応措置は、第一クールにおける副作用発現の経緯を参考にしてこれを準備せざるを得ない状況にあったと認められる。第一クールにおける副作用の発現の経緯は別表『検査データ一覧表』上段記載のとおりであって、同表下段記載のとおり、第二クールにおいても花子の血小板数と白血球数は次第に減少していったものの、その血小板の減少速度は第一クールの場合に比較して明らかに緩慢であり、それがアクチノマイシンDの一日当たりの投与量を半減した結果であると理解されたのは無理もないところであったと認められる。したがって、第一クールにおいては投与開始日から一〇日目に到来した血小板数の最低値の記録日が第二クールにおいてはある程度遅れると判断することが不合理であるとはいえないから、第二クールにおいては概ね一、二日置きの割合で行っていた血液検査の実施頻度を第一二日目(九月二八日)まで続けたことも検査の懈怠があるとまではいえない。西田医師らは、第一二日目の九月二八日の血液検査により、花子の血小板数と白血球数の急激な減少を発見し、直ちに血小板輸血の手配をするとともに、その日の内に四〇〇ミリリットルの生血輸血を実施したのであるが、生血は血小板輸血剤に比較して血小板の保存割合が高いという有効性があるのであるから、右の四〇〇ミリリットルの生血輸血が不十分であるとは必ずしもいえない。また、血小板輸血剤を入手した九月二九日と三〇日の両日それぞれ血小板輸血を行っているから、これらの事実によれば、西田医師らが」に改める。

三  説明義務違反について

1  被控訴人病院が花子及び家族に対し花子の治療について説明した経緯は、次のとおり、訂正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第三の三の1と同じであるから、ここに引用する。

原判決四四頁九行目の「設けなかったが、」の次に「小松医師らは、」を加える。

2  ところで、前記認定のとおり、西田医師らの花子に対するアクチノマイシンDの投与を含む本件化学療法は、研究手段又は実験として行われたものといえないから、西田医師らにそのことに関する説明義務があったということはできないが、右化学療法は平成四年当時においては明細胞癌に対する標準的治療方法として確立したものではなかったことも前示のとおりである。右化学療法には深刻な副作用を伴う蓋然性があることは良く知られていたと認められるから、仮に西田医師らが右の化学療法の有効性を提唱した研究者であり、西田医師らにおいては、この治療方法を採用したことに治療上の過失がないとしても、深刻な副作用を伴う生活ないし生存状況と癌の予後に伴う生活ないし生存状況や危険性等を衡量して患者のクオリティ・オブ・ライフあるいはより楽な死への過程を考えた医療を選択するために、この種の先端的治療方法を採ることについて患者等の自己決定を尊重すべき義務があり、そのために花子ないしその家族に対して採用しようとする先端的治療方法について厳密に説明したうえで承諾をとる義務があるというべきである。

右の認定事実によれば、最初に花子と控訴人一郎らに化学療法の内容と必要性等を説明したのは、八月一日の佐々木医師の告知であり、その際には食欲の減退、髪の毛が抜けること、口の中が荒れること、白血球や血小板の低下が生ずることなどの副作用が発現することの説明が行われていると認められる(なお、同医師は第一クールに入った二日目である八月二一日にも控訴人一郎らに花子の明細胞癌がリンパ節に転移した危険性の高いものであることと再度抗癌剤の副作用を説明したことが認められるが、右の説明は、花子らが右化学療法を受けることに同意した後の説明であると認められる。)。しかしながら、前記認定の佐々木医師の化学療法開始前の説明は、必ずしも標準的治療方法となっていなかった治療方法を採用する場合の患者らの自己決定権を尊重すべき説明となっていたとは認められない。すなわち、前記認定事実によれば、佐々木医師は右の化学療法は「五年ないし十年先を考えると、実施していた方が安全であり、また、必要な治療である。」として、本件化学療法の有効性と必要性を強調し、当時その治療方法が先端的なものであり、一般的には標準的治療方法として承認されてはいないという事実を説明していなかった。そのために、花子ないしその家族の副作用の危険に対する認識が明確にならず、本件化学療法回避の選択をする余地をも考慮に容れた判断が困難になったものと推認される。

また、前記認定のとおり、第一クールが開始した後の説明においては、控訴人一郎らに対するものであり、副作用の深刻さの説明もあったものと認められるが、既に第一クールが開始されている状況の下での説明であるから、同じく花子らが途中で第一クールの本件化学療法の中止を申し出ることは事実上困難であると推認される。さらに、第二クールが開始される前までには、小松医師ら主治医は、日常的な会話の中で花子に対してある程度の説明を行ったと推認されるが、右のような説明も、既に第一クールが終了し、医師らから血小板数等の著しい減少があったこと等の詳細な説明がない限り、アクチノマイシンDの投与による深刻な副作用や出血性ショック死等の危険性を考慮に容れた患者等の自己決定権を尊重する内容のものではなかったと認められ、説明義務を尽くしたとはいえない。

3  このように、花子と控訴人一郎らに対する説明が不十分なものにとどまったことについては、前記認定のとおり、西田医師らの主治医が花子の病状を気にする言動を見て、これに対する配慮をしたことによるものであったと認められるが、個別の患者に対してどのような方法で説明義務を尽くすべきかの問題があるからといって、前述の説明義務が軽減されるものではない。さらに、西田医師は、乙八(陳述書)添付別紙2において、最善の治療法を採用する限り、患者から治療を任されているから説明の要はないと考えたと述べるが、右のような説明義務は、診療契約上の債務そのものではなく、診療契約の債務に付随し、個々の診療行為について個別に発生する義務であるから、西田医師らが、最善と信ずる治療方法を採用し診療契約上の債務不履行又は不法行為上の過失がないからといって、前述の説明義務が軽減されるものではない。

4  以上のように、花子について本件化学療法を実施するについては、患者の自己決定権を阻害する説明義務違反があったと認められる。前述のとおり、本件化学療法の採用と実施については、西田医師らに診療契約上の債務不履行又は不法行為上の過失は認められないが、右の説明義務違反により、これとは別に不法行為責任が成立するものと認められる。

四  控訴人らの損害について

1  右の認定のとおり、西田医師らには説明義務違反の右説明義務違反が花子の血小板減少症による出血性ショック死の直接的原因でないことは明らかであり、また、花子ないしその家族が、右の説明義務が尽くされていたならば、アクチノマイシンDの投与という化学療法を拒否し、右死因による死亡を回避した蓋然性が高いと認めるに足りる証拠もない。そうすると、控訴人に生ずる損害は、十分に説明を受けなかったという精神的損害のみであると認めるのが相当である。

2  そこで、控訴人らの慰謝料について判断するに、《証拠省略》によれば、控訴人らは花子の発病以来、療養看護につとめ、西田医師らの説明義務違反により、突然のその死亡について著しい精神的苦痛を受け、医師らに対する不信感を抱くに至ってその苦痛も増加したものと認められる。これらの事実のほか、前記認定の説明義務違反の態様、程度等一切の事情を斟酌して、控訴人太郎の慰謝料額を六〇万円と、控訴人B山春子、同C川夏子及び同一郎の各慰謝料額をそれぞれ三〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上のとおり、控訴人らの本件請求は、被控訴人に対して控訴人A野太郎が六〇万円、控訴人B山春子、同C川夏子及び同A野一郎がそれぞれ三〇万円並びにこれらに対する不法行為の日の後である平成四年一〇月二日から支払ずみまで年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求を棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決は不当であるから、これを取り消して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 廣田民生)

<以下省略>

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